設立の趣意

 神奈川の地名は遠く「古事記」「万葉集」などの古典に見られますが、鎌倉時代以降神奈川はわが国の歴史上きわめて大きな役割を果し、文化の領域でも数々のすぐれた遺産がのこされています。
 特に嘉永6年(1853年)のペリー来航以後は、新しい日本の思想・芸術などの一中心となり、日本の近代・現代文化の発展に寄与してきました。
 中でも文学の分野では、すぐれた詩人・作家をはじめ、様々なジャンルにおいて、秀いでた仕事をのこした文学者が神奈川から出ています。また神奈川に住んで活躍した多くの文学者がいます。これらの文学者の原稿・創作ノート・日記・書簡・筆墨・遺品などの一部分は、日本近代文学館や県下の幾つかの図書館・記念館などに大切に収蔵されているものの、なお多くの貴重な関係資料がいたるところに散在し、埋れたままになっています。
 神奈川県は、このような文化遺産を散逸から守り、県民の共有財産として収集整備し、広く県民の利用に供するため、財団法人日本近代文学館をはじめ、多数の文学者の協力を受け、また広く県民の支援を得て、県立神奈川近代文学館を設置することになりました。
 この文学館では、神奈川にゆかりの深い各種の近代文学資料をはじめ、他のジャンルに比して整備のいちじるしく遅れている児童文学の諸文献などを収集保存し、広く展観に供します。
 また文学館を拠点として、講演会や講座の開催、出版などの事業を行い、県民の文学に対する理解と関心を高め、個性的で文化の香り豊かな神奈川を創造してゆく活動の場として機能することができれば、極めて意義の深いものになると考えます。
 しかし、この文学館をより効果的に運営し、文学愛好者はもとより、広く県民に活用され、親しまれるものとするためには、文学関係者がすすんでその運営に参画することが必要であります。
 そこで、これらの事業を推進し、もって県民文化の振興と日本文化の発展に寄与することを目的としてここに財団法人神奈川文学振興会を設立するものです。

 1982年1月25日
 設立発起人 井上 靖 尾崎一雄 小田切進 中村光夫 長洲一二

(財団法人神奈川文学振興会は2011年4月1日をもって、公益財団法人神奈川文学振興会へと名称変更致しました。)