小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)作品や英米の怪奇小説、推理小説の多くの名訳で知られる翻訳家・平井呈一(1902~1976/本名・程一)は2026年に没後50年を迎えます。呈一は1902年(明治35)、神奈川県程ケ谷字神戸(現・横浜市保土ケ谷区神戸町)で生まれ、生後間もなく日本橋浜町の商家へ養子に入り、江戸情緒が色濃く残る下町で育ちました。中学時代に小泉八雲の『怪談』を原書で読み、欧米の怪奇文学に関心を持ち、早稲田大学中退後は佐藤春夫に師事して、春夫の海外小説翻訳の下訳などを行っています。1934年(昭和9)に春夫の八雲作品邦訳に協力し、この時から小泉家との親交が始まりました。また春夫の伝で永井荷風を知り、荷風に師事して交遊を深めましたが、偽筆事件に関わって破門されています。
戦後は南房総に永く住み、オスカー・ワイルドやサッカレーの翻訳、ミステリー作品を中心に英米文学の翻訳を多数発表。また、疎開中に新潟県小千谷町で教師として過ごした縁から恒文社の社長・池田恒雄と知り合い、呈一による『全訳小泉八雲作品集』全12巻を同社から出版するなど、外国文学の翻訳や紹介を通じて広くその名を知られました。
2005年、呈一の晩年に親交があった俳人・稲村蓼花氏、弟子であった紀田順一郎元当館館長、荒俣宏元評議員らの尽力によって肉筆資料、遺品など200余点が当館へ寄贈されました。今回の展示ではこれらの資料を中心として、NHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」で注目される小泉八雲の作品を多く翻訳し、その魅力を世にひろめた平井呈一の足跡を紹介します。
※同時開催
・2025年12月6日(土)~2026年1月25日(日)常設展「文学の森へ 神奈川と作家たち 第1部 夏目漱石から萩原朔太郎まで」→ 詳細
・2026年1月31日(土)~2026年3月22日(日)常設展「文学の森へ 神奈川と作家たち 第2部 芥川龍之介から中島敦まで」→ 詳細
| 【会期】 | 2025年12月6日(土)~2026年3月22日(日) 休館日:月曜日(1月12日、2月23日は開館)、12月28日(日)~1月5日(月)/展示休室=1月26日(月)~30日(金) |
|---|---|
| 【開館時間】 | 午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで) |
| 【会場】 | 神奈川近代文学館第3展示室 |
| 【観覧料】 | 一般260円(160円)、20歳未満・学生160円(110円)、65歳以上110円(110円)、高校生100円(100円)、中学生以下無料 *( )内は20名以上の団体料金 ※身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者手帳、戦傷病者手帳の交付を受けている方は、手帳もしくは、ミライロID の提示で無料(詳しくはお問い合わせください)にてご入場いただけます。事前の申請等は必要ありません。手帳の所持者及びその介助者(※2)の方は観覧料が無料となります。 ※2原則として手帳の所持者の介助者1名まで。ただし、手帳の所持者1名に対して2名以上介助者が必要な場合は事前にご相談ください。 |
| 【主催】 | 県立神奈川近代文学館、公益財団法人神奈川文学振興会 |
| 【協賛】 | 横浜高速鉄道、神奈川近代文学館を支援する会 |
展示資料紹介

呈一訳「梅津忠兵衛」原稿
原作は"A Japanese Miscellany(日本雑記)"(1901 Boston Little Brown&Co.)に収録。出羽国横手(現・秋田県横手市)の領主・戸村十太夫に仕える勇敢な若侍・梅津忠兵衛の不可思議な体験を描く短編。忠兵衛とその子孫が氏神から不思議な膂力を授かったという説話を題材としている。
当館蔵・稲村蓼花氏寄贈(以下*)

実父が創業し、現在も上野で営業が続く菓子舗「うさぎや」の配り団扇に呈一が揮毫したもの。「短夜」は夏の季語。置屋にある裏階段を詠んだ一句。*

1904 Boston Houghton, Mifflin & Co.
『怪談』の初版本。妻・セツが語った日本各地の怪談や伝説を再話し、八雲自身の視点で解釈を加え、珠玉の17の短編に仕上げた。後半にはエッセイ「虫の研究」3編が収められている。
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